改めてラスティとの友情・2

(……まさかこの場において、洗脳メソッドを目の当たりにするとは)
(私がサポートするので、気を確かに持ってください。……いえここは諦めましょうレイヴン)

 (ラスティ、お前が私を邪な道に引き込む奴だったとは予想していなかったぞ)と内心で尊敬していた人物の二人称を「君」から「お前」へと降格させつつ、レイヴンは自分を「炬燵」へと嵌めた者を恨みがましく見るのを耐える。
 ラスティがレイヴンを案内したのは解放戦線におけるオキーフの執務室。ヴェスパーを抜けたオキーフは協力者として解放戦線に招致されたと聞いているのでその事は問題ない。ただその時刻が、本来は夜警担当者のみが詰める深夜。さらに言うなら執務室中央に炬燵という執務室に似つかわしくない家電製品が置かれ、そこに現在はエルカノの社員であるペイターが褞袍を着て座り、ルビコンの高級飲食店のチラシを広げていなければだが。
(……元V.Ⅷペイター。技研都市で貴方を部下に追わせた相手ですが、対応はお任せします)
 ルビコンに進駐していたアーキバス社員は解放戦線の工作により本社から切り捨てられ、人材不足に悩んでいた解放戦線らに受け入れている。そんな現状で態々エアがこう訪ねてきた理由について、レイヴンは考えない事にした。

 そうしてラスティの手によりジャケットを脱がされ、褞袍に着替えさせられた後、無意識のうちに自分も炬燵へと足を滑らせてしまった事で、ようやくレイヴンは自分が嵌められた事に気づく。
「レイヴンの快気祝いという事で、オキーフさんが食事を奢ってくれるそうです」
「せっかくだから『物凄く』良い店を選ぼう、戦友」
 そう肩を組んできたラスティも褞袍に着替ている事により、「同じユニフォームを着た者が同席」し、オキーフに集るという「罪に加担する」……そんな洗脳の構図が成立してしまう。執務机で頭を抱えるだけの……ヴェスパー時代の後輩二人が深夜まで自分の執務室に居座るせいで、まともに眠れなくなっているオキーフにレイヴンは「貴方はこれで良いのか」と助けを求めるが、「俺は諦めた。お前も諦めろレイヴン」と見捨てられてしまう。

「何ならオキーフ、2次会3次会の予算も出してくれていいんだぞ」
「流石にそれは、お前とペイターで割り勘にしろ」
「割り勘ですか。エルカノが接待交際費として認めてくれれば良いのですが」
(……普通の飲み会なら私も出すのだが、快気祝いという名目である以上、ここは出さないのが筋だろう)
 レイヴンが当社の顧客である以上、もてなしをしたら本社に領収書を出さないといけない。ホワイト企業勤めの辛いところです。そう満面の笑顔で宣いつつ最高級のコースに〇を付けた上でチラシを回してくるペイターを前に、どうやら彼はホーキンスの事を完全に水に流したようだとレイヴンは思った。そしてオキーフがこれ見よがしに大きな溜息をつくのを横目にもせず、1次会2次会3次会の店の選定を行う強化人間ども。


 そんなこんなで「オキーフを除いた3人」の強化人間のみでレイヴンの快気祝いが行われた翌日、オキーフの端末に「頼む……受け取ってくれ」「このままではいずれあいつ等のように」と、暴飲暴食が祟っての嘔吐の間に絞り出されたメッセージと共に、1次会で使われた店の食事券が届けられた。
 だがその金額はオキーフがレイヴンに奢った金額の4分の1にも満たず、オキーフはレイヴンがあいつ(ラスティ)とあいつ(ペイター)による洗脳に屈した事を悟ったという。